24/7/2023 大西 宏佑 Manager
NNA様に取材いただきました!活況呈するタイの工業団地EV、プリント基板が特需(上)
電気自動車(EV)とプリント基板(PCB)関連の投資がタイで活況を呈している。新型コロナウイルス感染症の流行の収束に加え、米中対立の深化や台湾有事といった地政学的リスクの高まりが背後にある。タイ政府の投資誘致策も後押しとなっている。NNAはタイの大手工業団地の日本人スタッフからの聞き取りやタイ投資委員会(BOI)のナリット長官への単独インタビューを通じて、現場の様子を伝える。
タイ大手工業団地WHAインダストリアルディベロップメントは 2022 年、前年比 3.2 倍の 1,672 ライ(267万 5,200 平方メートル)の土地をタイで販売。洪水直後の 12 年の過去最大を更新した。同社の湯浅謙一ディレクターは「コロナ禍で投資が停滞していた反動もあり、一気に進出企業が増えた」と話す。23 年も「1,200 ライを目標に据えている」(湯浅ディレクター)という。 WHAコーポレーションは、東部3県(チョンブリ、ラヨーン、チャチュンサオ)の経済特区(SEZ)「東部経済回廊(EEC)」に計 11 の工業団地を運営しており、入居企業に自動車関連の多いのが特徴だ。エンジン・トランスミッションをはじめ、エアコンやステアリング、排気システムなど自動車の製造に必要なほぼすべての部品メーカーが集積する。
鉄鋼・産機インフラ・繊維・食料の分野で事業を展開する日鉄物産(東京都中央区)が出資しているロジャナ工業団地も、22 年末時点の受注残は前年比約 2.9 倍の960 ライとなった。今年に入っても好調が続いている。第1四半期(1~3月)は 440 ライの土地の販売契約を結んでおり、ロジャナ工業団地の大西宏佑マネジャーは「残念ながら意思決定の早い顧客に優先販売をせざるを得ない」と、うれしい悲鳴を上げる。 ロジャナ工業団地は中部アユタヤ県と東部チョンブリ・ラヨーン・プラチンブリの合計4県で、8つの工業団地を開発・運営している。特にアユタヤ県は水資源が豊富であることから、製造に洗浄工程の多いPCB関連に強いのが特徴だ。PCBは、絶縁層の板に導体の配線を配置させた部品で、抵抗器やコンデンサー、半導体などの部品を実装して利用される。スマートフォンやゲーム機、自動車、電車、産業機械などの内部には必ず入っている。 アマタ・コーポレーションも 22 年末時点の受注残は
1,000 ライを超える。チョンブリ県とラヨーン県で工業団地を運営するほか、タイ政府と協力して、チョンブリ県にあるアマタシティー・チョンブリ工業団地に学校やホテル、ゴルフ場、ショッピングモールなども建設し、人が生活できる空間にする計画を進めている。昨年は、ホテルオークラの子会社オークラ・ニッコー・ホテル・マネジメントがオペレーションを担う「ホテル・ニッコー・アマタシティ チョンブリ」が本格開業し、「スマートシティー」造成に向けた第一歩を踏み出した。
目立つ大型案件
22 年の投資案件をみると、EV関連の大型投資が目立つ。タイ政府は 30 年までに自動車生産台数に占める二酸化炭素(CO2)の排出がないゼロエミッション車(ZEV)の割合を 30%に引き上げる目標を掲げており、自国生産と販売補助金をセットにしたEV優遇策を打ち出している。
中国の比亜迪(BYD)は9月、WHAインダストリアルディベロップメントと東部ラヨーン県の「WHAラヨーン 36 インダストリアル・エステート」にEVの生産工場を建設する契約を結んだ。投資額は約 179 億バーツ(約 707 億円)。同社が中国国内以外にEVの生産拠点を設けるのはタイが初めてだ。 EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海精密工業とタイ国営石油PTTによるタイの電気自動車(EV)合弁、ホライズン・プラスは7月、ロジャナ工業団地と土地の売買契約を締結した。東部チョンブリ県に面積が約 50 ヘクタールの用地を取得。11 月に着工し、2024 年の操業開始を予定している。事業費は370 億バーツで、年産規模は5万台から出発し、15 万台まで拡大する。
地政学的リスクを考慮
PCB関連では、タイ地場大手のKCEエレクトロニクスが 11 月、中部アユタヤ県のロジャナ工業団地に新工場を設立すると発表した。建屋の建設や設備の購入を含めた総事業費は 80 億 6,000 万バーツだ。同社は現在、バンコク・ラートクラバン工業団地に自社工場を構えている。 ロジャナ工業団地の大西マネジャーによると、地政学リスクの高まりから現在多くの中国や台湾のPCB企業がタイへの生産拠点の移管を検討しているという。タイ投資委員会(BOI)のナリット長官によると、中国の電子回路関連企業で組織する中国電子電路行業協会(CPCA)が、タイを生産拠点(ハブ)にする方針だ。ロジャナ工業団地では最近も、アユタヤ県の工業団地で台湾企業との大型案件が決まったという。 プラチンブリ県にある 304 工業団地も人気の入居先となっている。自動車産業の集積が進んでおり、PCB大手の日本シイエムケイ(東京都新宿区)が9月、304工業団地内に新工場を建設すると発表した。投資額は約250 億円。主力の車載向けの生産能力を増強する。