2022年タイ(アユタヤ地域)洪水について
2022年10月29日にタイ気象庁は乾季入りを発表致しました。今年はラニーニョ現象の影響もあり、チャオプラヤー流域での降雨量は11年対比で97.6%となりました。今回の降雨に対してロジャナ工業団地はどのような状況だったか、今年の降雨状況を加味しながらレビューを致します。
気候変動?2011年と2022年の違い
上述の通り、累積雨量では2011年に匹敵する降雨量があったチャオプラヤー流域ですが、2011年と比較すると雨が降ったエリアに違いがあります。
赤丸は11年より降雨量の多かったエリアです。タイでも最大級の貯水量を誇るプミポンダムの水位が影響する⑤Upper Pingエリアでは2011年対比+16%、ロジャナ工業団地の取水源であるパサック川の上流エリア④Upper Pasakエリアでは+10%、ロジャナ工業団地アユタヤや首都バンコクの②Lower Chaoprayaエリアでは+13%と非常に降雨量が多く、バンコクの一部エリアでは洪水が散見されました。
一方、大洪水の一つの要因となるこちらもタイ最大級の貯水量を誇るシリキットダムがあるエリア③Upper Nanエリアでは11年対比で-21%、チャオプラヤー川上流①Upper Choprayaエリアでは-16%と場所によってまったく状況が異なる結果となりました。
10月7日のバンコクポスト、10月9日の日本経済新聞にも取り上げられておりましたが、チャオプラヤー川に隣接する工業団地のナコンルアン工業団地、ハイテック工業団地、バンパイン工業団地はIEAT(工業団地公社)よりWarning Level 2の警戒アナウンスが発令されました。誤解のなようにお伝えさせていただきますがロジャナ工業団地は含まれておりません。
Warning Level 2とは以下のChaopraya Dam(そのエリアでの降雨量とプミポンダム、シリキットダム、ケーオノーイダムの放水量が影響)とRamaⅥ Dam(そのエリアでの降雨量とパサックダムの放水量が影響)の流速合計3,500㎥/sを超えた場合にIEATより発令される警戒アナウンスです。この2つのダムはプミポンダムなどの水力発電を兼ねそろえたダムではなく下流への流量を調整する機能を持つダムです。
今年は特にPasak Dam付近での降雨量が多かった為、Rama Ⅵ Damを10月3日から7日にかけて開門しております。開門した影響により流速が上がり、今回の発令に至ったと予測されます。
主要ダムの貯水量
以前別の記事でも記載しておりますが、洪水を懸念する上での重要は指標は主要4ダムの貯水率です。特にプミポンダム、シリキットダムが満水となりコントロールができない状況になると洪水のリスクが高まります。
雨季終盤のダムの貯水率です。上述の通りプミポンダムの貯水率は11年対比で87%、シリキットダムは72%となっておりました。11年は前年の渇水状況を考慮し、政府が意図的にダムの貯水率を上げていた為、10月に入った時点で各ダムが満水となってしまっておりました。一方、今年は降雨量が11年対比同等であったものの、政府やEGATがダムの貯水量を調整していたことが伺えます。
2011年10月11日にロジャナ工業団地は被災致しましたが、当時の北部全体のダムの貯水量は99%となっており、ダムを放流するしか手段がなかった状況でした。今年は同時期で79%とまだ貯水率に余力がございました。
上図はプミポンダムの10月からの放水量を2011年と2022年で比較したものです。オレンジ線の2011年は10月に入った時点でプミポンダムが満水になってしまっていたため、ダムの水を放流するしかない状況でしたが、赤線の2022年は10月以前にダムの貯水量を調整していたため、雨季終盤となってもダムを放流する必要がない状況でした。
ロジャナ周辺の状況
赤線が2011年洪水当時の水の流れです。主要4ダムが満水となりコントロールできず、水が細い運河へ逆流しました。当時は水門が1つ(Khlong Chan Sluice Gate)しかなく、水量に耐え切れなくなったことがロジャナアユタヤが被災した原因の一つでございます。その後、2015年に日本政府のODAによりHan Tra、Kra Manの2つの水門が建設されたことにより、今年はロジャナ内での洪水はございませんでした。一方ロジャナ工業団地外について、この付近では11年対比で13%累積雨量が多かった為、ELの低いエリアで一部洪水が発生しておりました。ロジャナ工業団地内は洪水後、排出ポンプを1.5倍に増強した為、今年レベルの雨量となっても影響はございませんでした。
写真は2022年10月19日Han Tra門で撮影したものです。水門の西側(写真左側)は護岸が見えない状況となっておりましたが、水門の東側(ロジャナ側)は、通常通りの水位となっておりました。日本政府のODAにより建設された2つの水門がロジャナにとっては強力な洪水対策になっております。
また、行政主導でロジャナ工業団地を覆うように道路の嵩上げ工事が実施されております。道路そのものが防水提の役割も果たしております。勿論、周辺道路だけでなく、ロジャナの外周には73km以上に亘って、MSL=6.05Mの防水提もございます。ロジャナ工業団地としても、今後考えられるリスクを色々なアドバイスをもとに正確に判断し、洪水対策を続けていく所存でございます。
2022年11月18日現在の状況
乾季となりましたが、モンスーンの影響によりLower Chaoprayaエリアで降雨が続いております。洪水懸念はタイ北部のチャオプラヤー川上流に降る雨が影響致しますので、同エリアで降っても洪水が心配されるようなことはないと予測しております。予報によると11月24日まで低気圧の影響でバンコク周辺でも極地的な大雨が降るとのことです。
2022年の雨季を振り返って
今年は2011年と同レベルの降雨がありましたが、政府やEGATが主要4ダムの貯水量をコントロールしていたこと、行政主導の治水対策が機能していたこと、2011年からの洪水対策もありロジャナ工業団地への影響はございませんでした。一方、報道各社によると7万世帯以上が今回洪水被害を受け、タイ政府も根本的な対策がまだまだできていないように感じます。引き続きとはなりますが、入居企業様に置かれましても改めてBCP対策の見直しを行っていただき、万一の有事への対策をご確認いただきますよう、よろしくお願いいたします。
ロジャナ工業団地は現在、国立研究開発法人の防災科学技術研究所が行っているArea-BCMの構築を通じた地域レジリエンスの強化研究に協力しております。もしご興味がある企業様は是非ご連絡をお願いいたします。